引き剥がした表面の奥をのぞけば答えはあるけど 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖人君子かもしくは天使か神様か、
にこりとへらりの中間点のような擬音を浮かべて笑うそいつは「だいじょうぶ」とか「なんとかなる」とかそんな希望じみた台詞を堂々と言い放って事実その通りにしてしまうような有言実行が過ぎる完璧理想論者で、先に述べた偉大な三者とさも平然と肩を並べてしまうような、そんな奴だった。
実際、天使とは現在進行形で肩を並べている。そりゃもう天使と呼ぶにふさわしい金髪美少女の可憐な彼女はそいつの隣でそれはそれは幸せそうに微笑んでいらっしゃる。

そんなそいつは、

先日俺の理解の範疇を若干斜め上飛んでいく発言を爆弾投下とばかりに落としていった。
若干でも何でも俺の理解の範疇をはみ出してるわけだから俺は今になってもその発言の意味を理解してはいない。ただ、一言一句覚えてはいる。そいつは確かに、こういった、

「あんまりおれのことしんじないでくれよ」

あれは、そうだ、街から街へと渡る最中にレアバードが故障しやがったので仕方がなく徒歩で移動していた、だだっ広い平原でのことだ。
やけに冷たい風が吹き付けていて平原だったのでその風をさえぎるものが何一つとしてなくて、子供は風の子とはよくいうが同じ村出身のそいつ含めた低年齢三人組以外はちょっと参るような寒さが肌にしみていた、そんな時だった。
あまりに寒かったので俺はそいつにいつだってするように背中から抱きついて、見たより芯がしっかりとしていてたくましい背中に全体重を預けてその肩口に鼻先をうずめたあたりだった。がきんちょが不平不満をありったけ俺の左半身に浴びせていたがそれは見事に耳の反対側へと流れて吹き付ける風とともに平原のはるかかなたに吹き飛んでいった。まあそれはどうでもいいことなのだが、そのがきんちょの文句の中にまぎれてやけにはっきりと聞こえる声があった。
それがそう、そいつのあの発言。
しんじないでくれ、だなんてまずこいつがいうはずのない言葉だった。だから一気に俺の理解の範囲は狭まったのだろうか。言われた瞬間も今と同じように意味がわからずだけど首を傾げて聞き返すにはそいつの顔がやけに深刻そうだったので、さわらぬかみにはたたりなし、というか、面倒くさい話になっては厄介だと思ったので俺は風とがきんちょの文句のせいでまったく聞こえなかったことにしてそのまま思う存分体温を分けてもらった。

今になって思えば、聞き返していればよかったのかもしれない。

それからそいつはあからさまってほどじゃないが確かに俺と距離を置くようになっている。
大体が鈍感でできているくせに鋭いところは鋭いそいつは天使なその少女が傍にいるときは俺が絡まない事を知っているようだった。ああそうだ確かに俺は自分のもう一つの姿を映してひたすらに美しくしたような彼女のことがたいそう苦手だ、俺を避けるには彼女一人かまってりゃいいのだが、だがそんなことしてまで避けられる理由がわからない。
しんじるな、
それはいったいどういう意味なんだ。
俺が、お前にそれを言う理由だったらごまんとある。なんたってラスボスとなるであろう男とも敵対している組織とも連絡を取り合ってる最中だ。裏切り者の称号があるのならとっくの昔から顔面にはりついてることだろう。だから俺からならわかるが、お前をしんじちゃいけない理由なんてどこにもないのに、どうしてそんなことをいったんだ。

どうして、


どうして。



「俺様、ロイド君に嫌われちゃったのかなぁ」
天使ちゃんと仲よさそうに語らう赤い背中を見つめる。不意に首もとの白いマフラーが揺れて、そいつが俺を振り返った。目が合った瞬間驚いたようにそいつが不自然に顔を背けた。
その一瞬だが目元が赤く染まったように見えた。
まるで恋でもしてる少年少女のような反応だ。というか、まるきり今の俺の状態だ。だっていきなり目が合うとは思わなかったから、俺は空気に言い訳しながら赤くなったほほを片手で押さえてただひたすらに俯いた。

しんじるなよ、とは、どういう意味だろう

聖人君子かもしくは天使か神様か、
不純とか罪とか罰とか俺のたくさん抱えているものを一つも持っていなさそうなそいつは今日もにこりとへらりの中間点のような擬音を浮かべて笑っている。
たまに俺を見る目が随分と凝った装飾品を見るときに職人的に反応したときのような独特の熱っぽさを含んでいるが、まさかその意味が俺が抱くものを同じだとはいくら思考パターンを楽観的にしたところで確定事項としては捉えられないので、その視線の意味すらも俺の理解の範疇を超えてしまっているのだ。
そういえばこんなにわからないことだらけなのに、
俺は一体どうしてあいつに惚れてしまったのだろうか。


それすらも俺には、理解できてはいなかった。






 

 



ロイド→←←ゼロス
ゼロスは愛が大きすぎてロイドの実体を見失いがちの若干夢見る青少年でロイドはわりと年相応に愛も恋もゼロスにぶつけたいけどゼロスがあまりに自分に夢見すぎてるので逆に手が出せなくなってしまっている、みたいなそんな話だったんですよ?…文章の中で足りてない要素は確実にわかっているので各々の脳内でばっちりと補修をお願いいたしたい所存であります

610の日に日記で書いたやつ。祝うなら祝うなりのもの書けと。