(ガイゼロ/現代パラレル)

 

 

 

 

 

 

ロマンチックに赤添えて




 クリスマスに白い雪。なんてきっとすごくロマンチックなことなんだろう。一方通行でもそうじゃなくても、恋でもしてる人々にはきっと最高のシチュエーション。だけど決して万人向けではない。交通が不便だって社会人だって多くいるだろう。まあ俺は、そのどれでもないわけなのだけれど。
 クリスマスに白い雪。
 ロマンチックだと思わないでもないが両腕広げて歓迎できるようなものだと思ったことは二十一年の人生の中でたった八年。そう、たったの、八年だ。八年ってことはつまりは俺は八歳で、まだ自分のことすら一人ではろくに出来もしなかった頭からつま先まで青っちょろいガキだったわけだけど、それでも聖夜に降りしきる白い雪が忌まわしいと思える程度には思考力だってあった。
 八歳。奇跡の夜。誰もが望んだ聖夜に映える真っ白な雪。
 その日が終わってしまうよりもずっと前に、別れてしまった人がいる。
 物心つくより前からともに過ごした幼馴染の少年。俺よりひとつ年上だったけどいつも俺より背が低かったから俺はなんとなくお兄さんぶっていた。俺は姉がいるけど下にいないから、その反動だったのかもしれない。彼も妹はいたけど上にいなかったから甘えたり頼ったりする対象が欲しかったのかもしれない。その辺の考察はどうでもいいが、ともかく俺たちは合致した利害があって(そしてソレが例えなかったとしても)常に一緒にいた。
 俺の日常にはいつも彼がいた。
 彼イコール俺の日常といっても差し支えなかった。それくらいの関係だった。今となっては彼の方がそう思っていたか疑わしくはあるが当時は向こうもソレが当然なんだろうと思っていた。
 だから彼から別れを告げられたときはガキながらショックを受けた。
 家の都合で引っ越すからと、誤魔化すように笑ってたあの顔が今も鮮明に脳裏に浮かぶ。本当は病気の妹のために遠い国に行ったのだ。そう言えば俺が彼女の心配をするとわかっていたから家の都合なんて曖昧な言葉で濁したんだろう。気づいてたから、気づかないふりをした。ずっと一緒にいたいと思っていたけど、いえば困らせるからと我慢した。
 思えば俺たちはガキの癖にガキらしくなかった。
 我侭を言ってしまえばよかった。もうずっと会えなくなるであろうことは知っていたのに。我慢ばかりする子供は可愛くない、一緒に行きたいついていきたいと泣いてしまえばよかった。どうしてそうしなかったんだろう。だからクリスマスも白い雪も嫌いになってしまったんだ。ロマンチックなんてくそくらえだ。彼と別れた日を忠実に再現してくる聖夜なんて二度と迎えたくはないというのに三年に一度は繰り返す手軽な奇跡に吐き気がする。

 ああ、なのに、俺は奇跡に縋りたいと思ってしまうのだ。

 いくら忌まわしいと吐き捨てたところで二十五日は奇跡の夜だ。今夜がクリスマスだというのならば、天気予報で夕方から雪ですというのならば、あの赤い不審者にどうしても願ってしまう。
 靴下の中のプレゼントに興味などないから、今日と同じ日に別れた彼にもう一度会わせてくださいと。
 なんて矛盾した心なんだろう。わかっているけどどうにもならないのは俺がいかにも人間らしい人間のせいだ。矛盾は本能だ。だから仕方がないのだ。俺は毎年この時期自分にこう言い聞かせている。馬鹿らしすぎて笑えてくる。だけど、やっぱり願ってしまう。

(ゼロスに会いたい…)

 ゼロスとともに過ごした期間は二十一年の人生の中でたった八年だというのに。それでもその八年が俺の人生の大部分をしめているのだ。残りの十三年でたくさんの人と出会い別れ今もまだ付き合いとしているけれどどうしてゼロスよりも大切な人ができてしまわなかったのだろう。忘れることが出来たならば、俺は今赤い不審者の影を想像で追うこともなく可愛い彼女でも作って(自慢じゃないが女性には大いにモテる)聖夜を満喫していただろうに。 毎年毎年十三年間も不毛な願いをし続けることもなかっただろうに。わかっている、わかっているのに、けれどそれでも、どうしても。

(……ゼロスに会いたい。)

 また俺は今年も不毛な願い事に奇跡の夜を費やして終わるのだろう。
 無意味だ無駄だと笑われても、どうしてもやめられないのは、やっぱりそれは俺がいかにも人間らしい人間のせいだ。だから赤い不審者、よいこの子供たちなんか放っといて早く俺のもとに来てはくれませんか?

 

 





071224.
クリスマスだからクリスマスな話を書こうとして確かにクリスマスではあるけど何一つ成就されない話ができた(………)
そしてついに名前が出てこなかったけどコレはガイの話です!ガイゼロだったんですってゼロスも出てきてないけどね!にこ!わらうしかない!