ただ君に恋してる
(パラレル・千伊武くっついてない設定)
報われない・報われてはならない恋をしているんだなと、いつだって思う。そんな事に気付かないほど馬鹿ではないけど、気付いているのに止められない程度の馬鹿ではある。いつも目の前には虚しい現実が垂れ下がっている。
「今日誕生日なんだってね〜、これ、俺からお祝いー」 言葉と一緒に渡したのはチョコのケーキワンホール。無口で無愛想で無表情な彼は見た目とは裏腹に甘いものが大好きだということは彼の妹さんから聞いたこと。妹さん、という呼び方は少し他人行儀かもしれない。 「…誰に聞いたの」 「君の妹。お兄ちゃんのプレゼント買いに行くから付き合ってって言われて」 「ふぅん」 仮にも妹の恋人である俺に彼は全く興味を持っていない。 俺にもし可愛い妹がいたら、俺みたいないかにも遊んでますみたいな男が近づいたら警戒どころじゃ済まないけど、彼は本当にそんなことには無頓着だ。 「まァ、どうもありがと……わざわざ家まで持ってきてくれなくてもいいのに」 「知ってる誕生日は全部祝いたいの俺、おめでと」 変な人、と彼は呟きながらケーキの箱を靴箱の上に置いた。妹まだ帰ってないけど、上がってく、という誘いに、少し考えてから首を横に振った。 「折角の誕生日なのに、俺がいちゃ妹さん独占しちゃうよ」 「別に良いけど…居ても居なくてもアンタの話しかしないしね」 うわ。どんなこと話されてるのか気になる。 「お兄ちゃんとしては嫉妬する?」 「する筈ないでしょ…」 少し呆れた風な声。 嫉妬してくれてた方が良いのに。少しでも俺の事を気にかけててくれたら良いのに。そんな下らないことを考えてしまう。そんな下らないことでも、実現したら喜びはしゃいでしまうのに。 「…じゃあ、用事済んだし俺帰るね、妹さんによろしく」 「ん……ねェ、アンタさ」 「うん?」 玄関先の彼に背中を向けかけたとき、彼がぽつりと呟くように言った。 「いつも妹さんって言うよね、付き合ってんだし名前で呼べばいいのに」 一瞬心臓がギクリと鳴った。 この動揺が顔に出てなければいい。いつもどおりの俺の表情が顔に張り付いていることを軽く指先で触れることで確認して、あー、と濁した声を漏らす。
「君にとっては、妹でしょ?」
ただ、君と居るときぐらいは彼女の恋人で在りたくないだけだ。だけど彼女の、君の妹の恋人という立場を利用しているのも事実で。 本音を知られたらきっと君にも、妹さんにも嫌われるだろう。 付き合っているのは、君に会える回数が増えるからだ。君の事を知れるからだ。君と少しでも繋がりが持てるからだ。それ以外の理由なんてない。彼女が君の妹じゃなかったら、付き合ってと告白された時は頷いてもどうせ一週間ともたずに別れていた。他の女の子達と同じように。違ったのは、彼女が君の妹だと知ったからだ。
「…ふぅん、よくわかんないけど、まァいいや。じゃあね」 「うん、またね」 また学校で。学年が違うから会える回数なんて片手で足りる程度だけど。 最低だなと自分でもわかっている。 純粋に自分に好意を寄せてる子を利用して、果たせない望みに光を見い出そうとしている。本当は君じゃなくて君のお兄さんが好きなんだなんて、冗談でも言えないような本音を隠してる。 最低だな。 一体いつまで自分の感情に縋る気なんだ。 報われるはずのない恋に。報われれば必ず一人を傷つける恋に。
「…伊武君!」 扉を閉めようとしていた彼が直前で止まる。視線だけが此方を向く。 一度息を吐いてから、不自然にならない程度の笑顔を浮かべた。
「誕生日おめでとう」
この言葉を君に伝えられる限りは、どんな現実も、俺は歩いていくんだろう。
扉が閉まる直前に見えた彼の少し笑った顔に、禄でもないことを考える手を引かれた気がして、今度こそ俺は背中を向けて歩き出した。 先に待っているのは、昨日と変わらぬ最低の毎日だけだけど。
20061103. あんましハッピーな感じじゃない千伊武。って書いたのはじめてじゃないかコレ。…昔何書いたか思い出せないから確かじゃないけど。 基本両想い設定が好きだからいつもそうだけどたまには趣向を変えて。 千石→高校三年 伊武→高校二年 伊武妹→高校一年 こっから色々あって結局千伊武になるみたいなの考えたけどそうなると妹さんの立場がうー、な事になるので書かなかった。読むのは好きなんだけどなそういうの。書くのは難しい。誰か書いてください、読ませてください(超他力本願!) |