無駄な努力
「指先が、好きなのかもしれません」
本を読んでいたら不意に君がそんな事を言って、俺の指を掴むものだから、一瞬どうしていいのかわからなくなってただ赤面してしまった。 顔が熱いというのがわかるほどに、硬直しかけた神経に鞭を打って何とか声を絞り出した。
「俺は、伊武君の方が好きだけどな」 「…真顔で云うことじゃないですよ、千石さん」 声を出すだけで必死で笑顔も作れなかったのか。 少し面白そうに目を細めた君を少しだけ高い位置から見下ろして、 しまったなと思ったけど、もういいやと考え直した。
「真顔で云わないと、真実味がないでしょ?」 「嘘かどうかはわかりますから、どうでもいいことですよ」 はっきりと言い切られてしまってコレはもうどうしようもないなと思った。
顔が、
熱くて死にそうなんてことは、
なんとか隠し通したいことだと、必死に指先から伝わる君の体温から目をそむけようと努めた。
050503. |