君の心我知らず

 

 

 

「さいあくだ」重たそうな銀の指輪をはめた細長い白い指を十本フルに使って頭を抱えているごくでらはさっきから同じ言葉を繰り返している。たまに、さいていだ、が混ざるが字面も意味も大して変わらない。
なにが?とは三回目のさいあくだで訊いたがごくでらはまるで俺を空気にして答えてくれなかった。ごくでらが相手にしてくれない以上一人きりの俺は一人であるが故にキャッチボールもできずにただひたすらにごくでらの呟きを聞きつづけるしかなかった。

「さいあくだ」
「だからなにが?」

だけど退屈には限界があった。俺は空気にされないように獄寺の頭を抱えている腕を取って腕の先につながっている上半身ごと引き寄せてそう尋ねた。ごくでらはその瞬間バシッと俺の手をたたいて驚いた顔をした。そのごくでらがあまりにも驚いた顔をしてそしてなぜか困ったような顔をしていたので俺はわけがわからなくて、なにが、と尋ねた顔のままで首を傾げるしかなかった。

「どうしたんだよ、ごくでら」

気まずそうな空気は無視した。ごくでらの視線は俺に合わない。
もう一度同じ言葉を繰り返すと、目が合わないごくでらの細長い白い指が頼りなげにかたいフローリングの床を引っかいた。

 

「どうして、おまえなんだよ」

 

答えたと思うとごくでらは膝を立ててその間に頭を伏せてしまった。うーとかうなってる声がくぐもって聞こえる。

おれがなに、とは訊かなかった。

ごくでらは頭がいいから俺の理解できないことを考えて悩んでいるんだろうなと思ったからだ。

 

 

俺は、獄寺の気持ちが理解できるようにはできていないのだ。

 

 
日記にかいたやつ。