ひどく単純な愛でいい
俺のどこが好き、と、無表情を絵に描いたような顔でごくでらが俺を見るでもなく呟いた。なんだそれお前せめてこっち見てくれよなんで普段は触れもしない俺のユニフォーム床に広げながらいうのつかなにやってんのそれ。 「どこって全部。…なにやってんの?」 「全部ってまたありきたりだな。もっと頭ひねれよ」 俺の質問は無視か。 もっとひねれもなにも、事実を答えるしかないだろうこういうのは。どうして面白い回答を選ばなくちゃいけないんだよ、って言おうとしたら丁寧に皺まで伸ばしてきれいに広げていたユニフォームに飽きたらしいごくでらがこっちを向いたので不満とか疑問は一気になくなった。つくづく単純に出来てる脳味噌だと誰に指摘されなくても思う。 「じゃあどうして俺が好きなんだ」 「そりゃ、ごくでらだからじゃないか?」 「何で疑問系なんだよ」 「ごくでらだからです」 言うとごくでらはふむ、とか呟いて頷くと、また「じゃあ」といった。いったいどれだけ質問があるんだろう。というかこんなに自発的に話しかけてくるごくでらは初めてだ。普段は俺が話しかけても四回に一度の割合でしか答えないのに。 「野球は何で好き?」 「…楽しいから」 「ふぅん」 「なぁごくでら、どうかしたのか?」 「いや別に」 最後の別にがやけに上機嫌に聞こえた。なんだなんだいったいどうしたんだろう。俺の脳味噌は単純に出来てる分当然のように他の奴より性能が悪いんだからはっきり言ってくれないと困るし察するとかそういうの無理だから。もう一度俺はごくでらにどうかしたのかと尋ねたけどやっぱりごくでらは別にといった。そしてやっぱり機嫌がいい。本当もうわけがわからない。 だけど、俺が少しは頭をひねってみようかと思ったところでごくでらが俺の膝の上に座るように抱きついてきたから些細な疑問は飛んで消えた。ホームラン並に飛んだ。やっぱり俺の脳味噌はひどく単純に出来ている。 上機嫌なままのごくでらを抱き返したらごくでらの気持ちが指先とかから流れ込んでくるような錯覚を起こして俺の機嫌も空くらいまで軽くあがっていった。 ひどく単純。 でもそれでいいと思って、ごくでらもそうだったらいいのになと思った。
床の上にきれいに並べられていたユニフォームは、いつの間にかぐちゃぐちゃになっていた。
楽しいから野球が好き、よりも獄寺だから獄寺が好き、のほうに愛の深さを感じる獄寺の話だったんですよ。言わなきゃわかんねぇ。 071118
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